2023/8/18

 休職した。六月中ほどより希死念慮が止まらなくなっていた。八月のはじめ、目が覚めたら、体が震えていた。取り急ぎ欠勤の連絡を入れ、精神科にかかった。待合室で、わたしは、久かたぶりに自分のために涙を流した。無意識に泣いてしまえば、それはもう、だ。診断書を受け取り、家に帰り、眠り、目覚め、謎の嘔吐と戦い、出勤し、ボス・副ボスと話し、休職が決定した。ほとんど記憶はないが、とにかく心配されていた。
 「今日はもう帰りなさい」と言われ、帰宅した。ひどく穏やかなこころだけが昼下がりの明るい部屋にあった。一か月。会いたいひとに会える。行きたい場所に行ける。本を読める、文字を書ける。なにもできなくなり、ようやっとやりたいことができるようになった気がした。何にも属せないこと。虚空としか話せないこと。どうしようもないこと。ひぐらしがむせび泣く夏。
 執筆ができるようになった。近頃は酒か鬱がなければ書けなかったが、Wordさえ開けば無心でキーボードを叩けるようになった。きっと内省の時間がなかった。わたしは主観でものを書くので、こころのうちを省みなければ書けない。考える時間があれば、すぐに気がつくことであった。最近は、死んだあとを夢想したり、花を求めたり、思想をまき散らしたり、している。
 読書をする。ボスに「図書館にでも行きなさい」と言われたため、図書館でありたけの本を借りた。全て川上弘美の著作である。神話が好きなので。わたしが酷かった時、川上弘美をすすめてくれた、顔も名も知らぬおねーさんのことも。
 音楽を聴く。New Jeansの新譜が好き。小林私の『繁茂』をiTunesで聴けるよろこび。UCARY & THE VALENTINEが良すぎる。もうそろそろPorter Robinsonを聴かねばならない。最近はやたらめったら抒情的な詩を穏やかな旋律に乗せた音楽を聴く。やはりわたしはどう頑張ってもSpangle call Lilli lineが好きなのだと気づいた。
 わたしの周りには面白い人間が多くいる。彼らは皆、諦めていない。わたしは何も言えずにいる。諦めれば楽になることを知っている。諦めない眩しさが好きだ。だから、ただげらげらと笑いながら話を聞いている。そうするしかできない。何も言えない。
 ただ、何も言えなくとも、何もできなくとも、どうにもならなくとも、腹は減るし、眠たくもなるし、ひとは生きる。それを「どうにかなる」と言うのならば、わたしはきっとどうにかなるのであろう。生きていればどうにかなるのだ。その言葉に怒りを抱いていた過去もあったけれど。家には珈琲しかないが、煙草のついでに酒やら穀物やら草やらを買い、生を繋いでいる。この間、良くしてくれる兄ちゃんにすき家に連れられ、三種のチーズ牛丼を初めて食した。味はしなかった。眠剤を入れ、泥のように眠り、一日を駄目にした。腰を痛めた。どうしようもない。今からわたしは花を買う。